電子印鑑は印影を画像データ化し、電子文書に押印できるようにした印鑑です。簡易的な電子印鑑であれば、WordやExcelなどのオフィスソフトを使って自分で作成することもできます。電子印鑑にはどのくらいの法的効力があるのでしょうか。実印(会社実印)と同じように、重要な契約書や法人登記などに使っても大丈夫なのでしょうか。この記事では、電子印鑑の種類や仕組み、電子印鑑と実印の法的効力の違いについて詳しく解説します。
1. 電子印鑑とは?
そもそも電子印鑑とは、印影をデジタルデータとして作成し、PDFファイルなどの電子文書に押印できるようにした印鑑を指します。例えば、実物の印鑑をスキャンして作成したものや、印影をデジタルデータとしてデザインしたものが電子印鑑に該当します。ここでは、電子印鑑の種類や仕組み、作り方を解説します。
1-1. 電子印鑑の種類や仕組み
電子印鑑といっても、単に印鑑を画像化したものと、本人が押印したことを証明するための識別情報が付与されたものの2種類があります。
印鑑を画像化したもの
印鑑をスキャンしたり、画像データを編集したりして、印影を単に画像化したもの
PDFファイルなどの電子文書にそのまま貼り付けることで押印できる
識別情報が付与されたもの
印鑑のデジタルデータに対し、本人が押印したことを証明するための識別情報を付与したもの
氏名、所属先、タイムスタンプ(時刻情報)などが識別されるため、いつ誰が押印したかを証明できる
識別情報が付与された電子印鑑は、電子契約サービスを導入したり、電子印鑑の専門店で作成を依頼したりすることで入手できます。一方、印影を画像化した簡易的な電子印鑑であれば、自分で作成することも可能です。
1-2. 電子印鑑の作り方
WordやExcelなどのオフィスソフトがあれば、簡易的な電子印鑑を自分で作成できます。以下はMicrosoft Wordを用いて電子印鑑を作成するときの手順です。
「挿入」タブの「図形」から、「新しい描画キャンパス」を選択する
描画キャンパス内に円形または楕円形の印鑑枠を作成する
印鑑枠を右クリックし、「図形の書式設定」を選択する
塗りつぶしを「塗りつぶしなし」、枠線を「赤」に設定し、幅やサイズを調整する
「挿入」タブの「ワードアート」を選択し、印鑑内側の文字を入力する
フォントサイズや色を調整し、必要に応じて文字を縦書きに変更する
印鑑枠の内部に作成した文字をドラッグして移動させる
描画キャンバスを右クリックし、「描画に合わせる」で微調整する
描画キャンバスをコピーし、「図として保存(.png)」を選択する
2. 電子印鑑と実印の法的効力
電子印鑑には実印と同程度の法的効力があるのでしょうか。通常の印鑑には、民事訴訟法第228条4項の規定により、一定の法的効力が認められています。特に印鑑証明書が必要な実印(会社実印)には高い法的効力があり、社内外の契約書や法人登記などに使われます。ここでは、実印と電子印鑑の法的効力の違いや、電子印鑑が実印と同等の法的効力を持つケースを解説します。
2-1. 実印の法的効力
通常の印鑑の法的効力を定めている法律が、民事訴訟法第228条4項です。[注1]
第228条
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
本人や代理人による押印がある場合、契約書をはじめとした私文書は「真正に成立したもの」とみなされ、法的な効力を持ちます。[注2]
契約書等の私文書の中に、本人の押印(本人の意思に基づく押印と解釈されている。)があれば、その私文書は、本人が作成したものであることが推定される。
特に実印は、役所の窓口で本人確認書類を提出し、印鑑登録をおこなった印鑑です。そのため、ビジネスシーンで使われる印鑑のなかで、実印がもっとも高い法的効力を持っています。
[注1]民事訴訟法|e-Gov
[注2] 押印に関するQ&A|経済産業省
2-2. 電子印鑑の法的効力
電子印鑑には、実印と同等の法的効力があるのでしょうか。電子契約の法的効力について定めた法律が、「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」です。[注3]
第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
民事訴訟法第228条4項と同様に、「本人による電子署名(電子印鑑)」がある限り、電子データ(電磁的記録)で作成された契約書は真正に成立したものとみなされます。ただし、「本人だけが行うことができることとなるものに限る」というカッコ書きに注意が必要です。印影を単に画像化した電子印鑑の場合、画像データは容易に複製できるため、「本人による電子署名(電子印鑑)」かどうかがわかりません。そのため、電子印鑑の種類によっては、十分な法的効力があるとみなされない場合があります。実印とほぼ同等の法的効力が必要な場合は、氏名、所属先、タイムスタンプなどの識別情報が付与された電子印鑑を利用しましょう。
3. 電子印鑑を使うときの注意点
電子印鑑を使うときの注意点は2つあります。
複製や偽造のリスクがある
電子印鑑を使用する前に相手企業へ確認する
電子印鑑の種類によっては、複製や偽造のリスクがあります。そのため、重要な契約書の場合は電子署名を利用するなど、契約の種類に応じた使い分けが必要です。また、いきなり電子印鑑で押印するのではなく、相手企業に電子契約でもよいか事前に確認しましょう。
3-1. 複製や偽造のリスクがある
電子印鑑の種類によっては、オフィスソフトなどを使って自分で作成できるため、複製や偽造のリスクがあります。重要な契約書に電子印鑑を利用する場合は、電子印鑑の専門店などで作成した印鑑か、電子契約サービスで利用できる「電子署名」を導入しましょう。
3-2. 電子印鑑を使用する前に相手企業へ確認する
相手企業によっては、そもそも電子契約自体に対応していない場合があります。電子印鑑を使用する前に、「電子契約を導入しているか」「電子印鑑での押印に対応しているか」を必ず確認しましょう。電子契約サービスなら、相手方がサービスを導入していなくても電子契約を締結することが可能です。
4. 電子印鑑を使用する場合は、書類に応じた使い分けを
電子印鑑とは、印影をデジタルデータ化し、PDFファイルなどの電子文書に押印できるようにデザインした印鑑です。電子印鑑には、印鑑を画像化した簡易的なものと、タイムスタンプなどの識別情報が付与されたセキュリティ強度が高いものの2種類があります。電子署名法第3条で規定されている通り、実印と同等の法的効力を持つのは、本人が押印したこと(本人性)を証明できる電子印鑑に限られます。契約書の重要度に応じて、電子印鑑を使い分けることが大切です。電子印鑑や電子文書を利用したい場合は、電子契約サービスの導入を検討しましょう。